創作した小説などを連載します
ただ今、「アイ アム ァ キャット」連載中…
最初から読む場合はクリックしてください
一番新しいのを読む場合はそのまま下に進んでください
★新しい小説を開始しました!
人生に目的を持てない独身男性と宇宙人との出会いを描く
SFファンタジックコメディ小説
「宇宙人、坂田六吉」へ ←ここをクリックしてください
『愛したいの。愛されたいの。理解したいの。理解されたいの』とマドンナはつぶやき、ひとつため息をついて、
『みんなそう願っているの。みんな、みんなそうなのよ。本当なの。クロ様のうちの凡太郎さんだって、芋子さんだって、お父さんも、お母さんも……。でも、ダメなの。どうしてもダメなの。愛することも、理解することも、今の人間にはどうしてもできないの』
彼女は持っていた小箱を机の上にぽろりと落とした。両手の拳(こぶし)を握りしめて、まぶたを強く閉じた。
僕は彼女の仕草をひとつひとつ視線で追って、何とか彼女の苦悶を和らげてあげたいと思ったが、なすすべもなく、その場に呆然(ぼうぜん)としていた。時だけが音もなく流れているのが感じられた。
「あー、あたしの大切なカーディガンの上に勝手に乗らないでよー」と言いながら、芋子は片手でさっと僕を払いのけた。僕はどさっと床にたたきつけられた。
「なに大げさにこけてんのよー。あたしの服の上に乗らないで、って言ったでしょ!ぅん、もー」
しまった、忘れていた。彼女は僕の毛が服に着くのを極端に嫌っているのだった。とっさに払いのけられたので、うまく着地できなかった。右手をくじいたようだ。痛む。とりあえずなめておこう。
「あー、つかれた!」
そう言いながら彼女はカバンをベッドの上に放り投げた。
僕は、その放物線軌道を目で追った。ベッドの上で軽く跳ね上がるカバンを見ていると、その上に次から次と色々なものが飛んできた。いつものことが……。
セーラー服。次がスカート、シャツ、靴下。リズミックに飛んでくる。その放物線軌道をひとつひとつ、つい追ってしまう。そして、最後に芋子の体が仰向けに飛んでくる。
「あー暑いなぁ、もう。疲れたなぁ」
ベッドにゴロンと寝ころんで大股を開き、両手を頭の後ろに組んで天井を見ている。その視線を追う。そこにはアイドル歌手のポスターが斜めに貼ってある。彼女はその写真を見てうっとりしている。自分のためにアイドル歌手が微笑んでくれていると錯覚しているようだ。
それにしてもだ。何というはしたない格好だ。人前の時の彼女との落差には、ただただ驚くばかりだ。ボーイフレンドの節穴君が見たら、さぞかしがっかりするだろうな。彼は彼女に首ったけで、芋子のことを世界で一番すばらしい女性だと思っているメデタイやつだ。
芋子は男の子を手玉にとって、優越感に浸っているだけなのだ。どんな男の子にも気があるような振る舞いをして、相手がそれに翻弄(ほんろう)されるのを見て喜ぶサディストなんだ。節穴君は彼女に自分だけ好かれている、と思いこんでいる。まぁ、騙される方も騙される方なのだが……。
彼女はしばらくポスターを眺めていたが、当然むくっと起き上がり鏡台の椅子に腰掛けた。背筋を伸ばし、両足はさっきと違い、きちんとそろえられている。そして、肩の下辺りまで延ばされた髪の毛を後ろにささっとすくい上げた。
さあ、始まるぞ、芋子の病気が……。